

目次 もっと見る
- 雇用保険とは?
- 雇用保険のメリット・デメリット
- 雇用保険の加入条件を知ろう!
- 雇用保険の計算方法を知っておこう!
- 社員だけじゃない!アルバイトやパートも雇用保険に加入できる
- 飲食店で必要になる労災保険とは
- まとめ
『雇用保険』は経営者にとってぜひとも身に付けておきたい知識の1つです。
労働環境を整え働きやすい環境をつくることは、従業員の確保だけではなく接客の質を上げ、お客様の満足度をアップさせることにも繋がります。こちらでは各種の雇用保険制度や、加入条件について詳しく解説していますのでぜひ参考にしてみてください。
雇用保険とは?

雇用保険とは、被雇用者である従業員の雇用の安定と就職の促進のために設けられている、様々な保険制度のことを指します。失業等給付、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大、労働能力の開発、労働者福祉の増進などを行っています。
その中でも特に有名なものとして、「失業手当」があげられます。なお、失業手当の正式名称は「基本手当」です。
基本手当
基本手当とは従業員が失業した際、次の働き口を見つけるまでに支払われる一時給付金のことです。失業者が当面の生活の心配をせず、求職に集中することができる環境を整備する目的で設定されています。基本手当は、失業していても働く能力があり、積極的に職を探している方に支払われます。したがって病気やけがなどで働けない方、再就職するつもりのない方は受給できません。基本手当は受給手続きをしてから原則4週間毎に支給されます。給付額は以下の計算式で決められます。
(離職前6か月の給与の総支給額の合計÷180)×給付率
給付率は離職時の年齢、賃金により決められ、45%~80%です。
傷病手当
病気やけがの場合、基本給付を受給できませんが、代わりに傷病手当を受けられます。支給額は基本給付と同額ですから名称が変わるだけですね。
ただし、健康保険の傷病手当などの支給を受けられる場合は、傷病手当は支給されません。
また、その他の雇用保険としては以下のようなものがあげられます。
育児休業給付金
従業員が1歳未満の子供を養育する際、育児休業を申請すると給付金が支給される制度です。ただし、育児休業中の就業日数が10日より多い、もしくは就業した時間数が80時間より多い場合は対象外となります。育児休業給付金の支給額の計算式は以下のとおりです。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%(ただし、育児休業の開始から181日目以降は50%)
育児休業給付金は、支給決定日から1週間位で指定した口座へ振り込まれます。
介護休業給付金
従業員が家族を介護する目的で休業を申請した際に、給付金が支給される制度です。介護される家族は、けがや病気によって2週間以上介護を必要とする配偶者、父母、子、義父母、祖父母、兄弟姉妹、孫を含みます。ただし、こちらも介護休業中に就労している日数が10日より多い場合は対象外となります。給付額の計算式は以下のとおりです。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%
介護休業給付金は、支給決定日から1週間位で指定した口座へ振り込まれます。
一般教育訓練給付金
従業員が厚生労働大臣が指定する一般教育訓練講座を修了した場合、入学金と受講料の20%が支払われる制度です。ただし上限は10万円で、受講のための経費が4千円を超えない場合は支給されません。情報処理技術者資格、簿記検定、介護職員初任者研修修了などを目指す講座などが当てはまります。
専門実践教育訓練給付金
労働者が厚生労働大臣の指定する専門実践教育訓練講座を修了する見込みで受講している場合、ならびに修了した場合に給付されます。対象は調理師、栄養士などの資格取得講座や専門学校の職業実践過程などです。支給額は教育訓練経費の50%(上限40万円)です。ただし、経費が4千円を超えない場合は支給されません。
高年齢雇用継続基本給付金
以下の2種類の給付金が含まれます。
高年齢雇用継続基本給付金
基本手当を受給しておらず、60歳以後の賃金が60歳時点の75%未満となっている方が対象です。
高齢者再就職給付金
基本手当を受給した後、60歳以降に再就職して、再就職後の月給が基本手当の基準となった賃金手当を30倍した額の75%未満となった方が対象です。
支給額は、支給対象月に支払われた賃金額に賃金の低下率に応じた支給率を乗ずることで計算します。例えば60歳時の賃金月額が30万円で、61歳時の賃金月額が18万円ならば、低下率60%、支給率15%になり、支給額は18万円×15%=27.000円です。
マルチジョブホルダー制度
高齢者の場合、パートやアルバイトで複数の事業所に勤務しており、1つの事業所だけでは雇用保険の適用にならないことがあります。これを解決するのがマルチジョブホルダー制度です。
マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、2つの事業所での勤務を合計して、1週間の労働時間20時間以上かつ31日以上の場合、マルチ高年齢被保険者となる制度です。この被保険者が失業した場合、一定の要件を満たせば、高年齢求職者給付金を受給できます。
これらは現在就業中の従業員に向けた制度であり、上手に活用することで様々な年齢、ライフスタイルの方が働きやすい環境をつくることができます。
特に育児休業給付金に関しては、昨今の女性の社会進出に伴い需要が急増しています。女性が働き口を探す際には、この育児休業制度の有無を重視する傾向にあるでしょう。
また、この他に事業主に対する給付金も用意されています。主に従業員のキャリアップを促進する試みをおこなったり、高齢者や身障者といった就職困難者を雇用した際に一定の助成金が支払われる制度です。
雇用保険のメリット・デメリット

雇用保険に入った時、どのようなメリットを得られるのでしょうか。また、デメリットはないのでしょうか。まずは、この部分を掘り下げて説明していきたいと思います。
率直に言うと、雇用保険でメリットを感じることはほとんどありません。それのそのはず「保険」という名前がついていることからも分かるのですが、保険なので、何かが起きないとその効力は発揮されません。
つまり、雇用保険に入っているからと言って、四六時中恩恵を受けれるかといえば、そうではないのです。じゃあ、雇用保険にメリットはないのかというと、そうでもありません。
「雇用保険に入っていて良かった!」
と思う時は、失業した時といえるでしょう。今の職場を退職して、次の職場を探すことになったときは、少なからず働いていない期間がでてしまいます。直ぐに仕事が決まれば良いですが、決まらないと焦りますよね。
でも、雇用保険に入っていれば、失業給付金を受けとることが可能となるために、落ち着いて、安心して求職活動をすることが可能となります。これが、雇用保険に入ることのメリットといえるでしょう。
でも、これだと同じ職場で勤め続ける限りは雇用保険のメリットを得られないことになるのですが、勤務中でもメリットを受けることができます。それは、キャリアアップなどで何かしらの金銭的負担が発生したときです。
こういった、条件つきで費用が発生するような場合は、雇用保険から支払うことができるので、自己負担を減らすことができます。その他、育児や身内の介護などで休職することになった時の給付金も雇用保険に入っていれば得ることができるようになっています。
このように、雇用保険は…
- 失業
- 育児休暇
- 身内の介護
- キャリアアップ
など「何かあるとき」「何かあったとき」にしか、その恩恵を受け取ることはできません。その為、雇用保険に入ることを嫌がる方もいるのですが、万が一の事態を考えれば入っていた方が得といえるでしょう。
さらに雇用保険に入ることでデメリットがあるならば、簡単に決断することはできないでしょうが、雇用保険にはこれといったデメリットはありません。
強いてあげれば毎月の保険料でしょうか。
一般事業の雇用保険料率は、労働者負担が0.0055、事業主負担が0.009です。例えば労働者の給料が20万円だった場合、労働者の雇用保険料は20万円×0.0055=1100円、事業主の負担は20万円×0.009=1800円になります。
ただ、保険料は平均して月1000円くらいなので、デメリットと言えないようにも思えます。メリットを考えると、雇用保険はぜひとも加入しておいたほうが良いでしょう。
雇用保険の加入条件を知ろう!

雇用保険に加入するための要件は以下のとおりです。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
また、正社員や派遣社員、パート、アルバイトなど雇用形態や、加入希望の有無にかかわらず、要件に該当すれば加入する必要があります。
労働時間に関しては1週間の通算労働時間なので「1日4時間×5日間」でも、「1日8時間×3日間」でも加入の対象になります。 また、雇用期間に関しては見込みでも適用されるので、契約時に31日未満で解雇となる規定等がなければ働き始めてすぐに適用されます。また、当初は31日未満の契約であっても、途中から31日以上の雇用契約となった場合には、変更が決定した時点で加入条件を満たすことになります。
日単発や雇用契約が30日未満の日雇い労働者であっても、雇用主が雇用保険の適用事業所であれば、所定の手続きを済ますと日雇労働被保険者となり、雇用保険に加入することができます。 また、日雇い労働者であって同じ雇用主のもとで31日以上継続で働いたり、2カ月以上月あたり18日間働いている場合は、一般被保険者または短期雇用特例被雇用保険者となり、雇用保険上は社員と同等の扱いとなります。
雇用保険の計算方法を知っておこう!

雇用保険料の計算方法は事業内容によって異なり、それぞれに設定された『雇用保険料率×賃金の総額』で求めることができます。雇用保険料率は「一般事業」「農林水産清酒製造事業」「建設事業」の3種類に分けられていますが、ここでは一般事業の場合の計算方法をご説明いたします。
前述の通り雇用保険にも様々な種類がありますが、失業保険に関しては従業員が一定額の保険料を支払うことになります。これは、年金や健康保険と同じで、一定額を継続して支払うことで、自らが失業した場合に給付金を受け取ることができるというものです。
その場合、一般事業の労働者負担額は『月の賃金×0.0055』で求めることができます。つまり、仮に月22万の賃金を受け取っている場合は以下のような計算になります。
22万円(月の賃金) × 0.0055(保険料率) = 1,210円
よって、この場合はひと月あたり1210円の雇用保険料を支払うことになり、多くの場合は給与から天引きされます。
一方、雇用保険料の事業主負担は『月の賃金×0.009』で求めることができます。つまり、仮に月22万で雇用している従業員に対して、事業主が負担する雇用保険料は以下のように計算することができます。
22万円(従業員の月の賃金) × 0.009(保険料率) = 1,980円
よって、このケースの従業員1人に対して、事業主側は月に1,980円の雇用保険料を負担することになります。
社員だけじゃない!アルバイトやパートも雇用保険に加入できる

あまり知られていませんが、実は雇用形態がアルバイトやパートであっても、一定の条件を満たすことで雇用保険の加入対象となります。
アルバイトやパートの従業員が雇用保険に加入しようと思った場合、加入条件は派遣社員と同じで以下の2つを満たす必要があります。
- 1週間の労働時間が20時間を超える
- 31日以上継続して雇用される
1週間の労働時間が20時間というのは、前述の通り1日4時間労働であっても平日フルで出勤すれば達成できる計算です。アルバイトの場合は1日平均6時間程度の就業時間が多いと思いますが、それでも週に4日出勤したら加入条件を満たすことになります。
従業員が少ない程、1人当たりの出勤時間も増えることが多いですが、たとえ1人であっても雇用していれば雇用保険の要件を満たすので注意が必要です。
また、実は雇用保険の加入条件を満たしているのに、知らないまま働いているアルバイトやパートの方も多いのが現状です。雇用主としては、事前にしっかりと説明するのが親切でしょう。イトやパートの方も多いのが現状です。雇用主としては、事前にしっかりと説明するのが親切でしょう。
雇用保険被保険者証とは
雇用保険被保険者証とは、労働者が雇用保険に加入していることを示す証明書です。加入する際に雇用主が手続きを済ませた後で、労働者に手渡すのが原則ですが、退職時まで雇用主が保管していることもあります。労働者にしてみれば、退職時や転職時に初めて目にするかもしれません。
雇用保険の被保険者番号とは
雇用保険被保険者証に記載されている11桁の番号です。転職時に転職先の事業主が、雇用保険被保険者資格取得届などを提出する際に必要ですが、雇用保険被保険者証がない場合は、ハローワークで再交付できます。
飲食店で必要になる労災保険とは

労災保険と言う言葉を聞いたことはあるでしょうか。中には「労働保険なら知っているけど…」という方もいるでしょう。でも、この両者は同じようで、異なるものとなっています。
答えから言いますと、労働保険とは雇用保険と労災保険をまとめた呼び方となっています。つまり、労災保険は単独で存在しているわけです。では、労災保険とはどのような保険なのでしょうか。
労災保険とは、労働者が業務中、または通勤途中に何かしらの傷害だったり、疾病にかかってしまう、最悪、死亡したケースに、労働者や遺族のために保険給付を行う制度となっています。
対象者は労働者となっており、その費用は原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。
ただ、労災保険においては、入っていれば自然と適用されるわけではありません。こちらも、何かが起こった時の「保険」なので、当然ながら処理が必要になってきます。事業主が療養給付請求書を提出し、都道府県労働局を介して労働基準監督署へ請求されます。
手続きは複雑であり、事業主が単独で行うのは困難です。そのため、この処理を厚生労働大臣の認可を受けた労働保険事務組合に委託していることが労災保険の適用条件となっています。
組合が処理をしてくれて、所轄の労働局長が承認した場合にのみ、労災保険が下りるというわけです。つまり、労災保険に入っているからといって、絶対に保険金が出るわけではないということは頭に入れておきましょう。
最後に、雇用保険、労災保険の加入方法についてお話していきます。この2つをまとめた労働保険ですが、所轄の労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出し、その後、所轄の労働基準監督署、都道府県労働局、日本銀行のいずれかに「概算保険料申告書」の作成と納付を行い、さらに「雇用保険適用事業所設置届」および「雇用保険被保険者資格取得届」を所轄の公共職業安定所に提出しなければなりません。
それほど難しい手続きではありませんし、時間もかからないので、新人スタッフが保険に加入するたびに、オーナーが事務処理を追われたりする心配はありません。
また、自身のリスクを考えれば、労働保険は非常にありがたい制度であり、入らないオーナーはいないと思いますが「なんか面倒だから…」といって、雇用保険、労災保険に入らないようなことは絶対にお勧めできません。
保険に入ることは、オーナーにとっても、スタッフにとってもメリットがあるので、お店の基本制度としておきましょう。
まとめ

今回ご説明したように、実はアルバイトやパートでも場合によっては雇用保険の加入対象となることがあります。雇用保険の存在自体は知っていても、被雇用者側は雇用主からの通達がなければあまり意識しないもの。
しかし、それは雇用主も同様です。後から指摘されてしまわないためにも、開業したら雇用保険に対する知識を深めて、あらかじめ従業員と情報共有しておくことがとても大切です。